続き!
ビジョナリーカンパニーの基本的価値観をもとに、自分自身の会社の基本的価値観をつくる罠には、絶対にはまらないようにすべきだ。
ビジョナリーカンパニーのものであっても、ほかの企業をまねたのでは、基本的理念にはならない。社外に人間の意見を従っていては基本的理念にはならない。
経営書を読んでも基本的理念にはならない。
土のお価値観が最も現実的で最も人気があり、もっとも利益を生むかを計算するのは頭の体操にすぎず、これでは生まれない。
基本的理念は企業の内部にある要素であり、外部の環境に左右されるものではない。
”ビジョナリーカンパニーの基本的価値観は、理論や外部環境によって正当化する必要などないものである。時代の流れや流行りに左右されることもない。市場環境が変化した場合ですら、変わることはない。”
息するかの如く自然なことであり、どこまで深く信じていたか、そして組織がどこまでそれを貫きとおしたかである。キーワードは本物であること。
添加物は不要、甘味料も添加物もなく100%混じりけのないもの。
目的‐
目的は単なる金もうけを超えた企業のっ根本的な存在理由である。
なぜ会社が存在しているか?
金もうけは会社が存在した結果にすぎない。
目的の最大の役割は、指針となり、活力を与えることであって、ほかの企業との違いを明らかにするものではない。
目的が不変であれば、一世紀以上にわたって組織の指針となり活力を与えるはずである。
ビジョナリーカンパニーは目的を追い続けるが、目的を達成することはあり得ない。
ウォルトディズニーの目的についての発言
「想像力がこの世から亡くならない限り、ディズニーランドが完成することはない」
ビジョナリーカンパニーは、胸がおどるような新しい事業分野へと発展しながら、基本的な目的を指針として守る能力があり、その能力を発揮しているのだ。
基本的価値観+目的を文書で掲げること と読者にもすすめたい
‐経営者以外の読者への注記
企業が理念を持っていない場合でも、個々のレベルで理念をつくることはできる。自分の部署が理念をもっていないからといって、理念をもってはいけない理由はない。
■第四章
基本理念を維持し、進歩を促す
第三章で述べた通り、基本理念はビジョナリーカンパニーに不可欠な要素だ。しかし、基本理念それだけでは、どれだけ意義があっても止まってしまい、変化しなければ世界から取り残されてしまう。
サムウォルトン
一度成功したからって、それを続けていてはいけない。周囲の状況は常に変化している。成功するためには一歩先へ行く必要がある。
トーマスJワトソンジュニア
世界は変化している。この難題に組織が対応するには、企業として前進しながら信念以外の組織のすべてをかえる覚悟で臨まなければならない。
ビジョナリーカンパニーは基本的理念を大事に維持し、守るが、基本理念を表す具体的な行動はいつでも変更し、発展させなければならない。
具体例:
ヒューレットパッカード
「従業員個人を尊重し配慮する」は基本理念の一部でずっと変わらないが、毎日、午前十時に果物とドーナツを配布するのは慣行であり、変わることがある。
ウォルマート
「顧客に期待以上のことをする」は変わらないが、入り口の挨拶係が立っているのは慣行であり変わることがある。
ボーイング
「航空技術の最先端に位置しパイオニアになる」は変わらないが、ジャンボジェット機の製造に力を注ぐのは基本理念ではなく戦略の一部だから変わることがある。
などなど、基本理念を文化、戦略、戦術、計画、方針などの慣行と混同しないことが何よりも重要である。これらは時間の経過とともに変わる。
しかし何よりも変わらないのは基本的理念である。
このことから、本書の中心となっている概念が導きだされる。
その概念とは
「基本理念を維持しながら進歩を促す」であり真髄である。
ウィリアムボーイング
新しいアイデアを不可能だという理由でつぶしてはならない。われわれの仕事は研究と実験を永遠に続け、研究の成果をできるかぎり早く製品に活かし、航空と航空機の新技術が当社と無関係に開発されていくことが決してないようにすることである。
進歩への意欲があれば決して満足しない。いつまでも満たされることない欲望のように。例え、大きな成功を収めようともどんな状況にも絶対に満足しないのがビジョナリーカンパニーである。
常に進歩できる、常に新しい可能性を見つけられる。大切なのは前進し続けることだ。
-基本理念を維持し、進歩を促す
ビジョナリーカンパニーでは、基本理念と進歩は共存しており、相互に力を与えあい、補完し合い、強化し合っている。
”企業が意図を持つのはとてもよいことだ。しかし、その意図を具体的な行動に移せるかどうか、アメと鞭を組み合わせた仕組みをつくれるかどうかが、ビジョナリーカンパニーになるか、永遠になれないままで終わるかの分かれ道になる。”
素晴らしい意図をもち、気持ちを奮い立たせるようなビジョンをもっているが、その意図を活かす具体的な仕組みをつくるという不可欠な手段をとっていない組織が少なくない。
もっと悪いのは、組織の特徴や戦略や戦術が、素晴らしい意図と矛盾していても目をつぶってしまうことであり、こうなると混乱が起こり、冷ややかな見方が広がる。
ビジョナリーカンパニーの建築家は、戦略、戦術、組織体系、構造、報酬制度、オフィス・レイアウト、職務計画など企業の動きのすべてに一貫性をもたせようと努力している。
第五章
社運を賭けた大胆な目標
‐明確で説得力のある目標
Big Hairy Audacious Goals = BHAG(ビーハーグ)
大胆な目標のこと
月旅行がそうであるように、本物のBHAGは明確で説得力があり、集団の力を結集するものになる。強いチーム意識を生み出すことも多い。
ゴールがはっきりしているので、目標をいつ達成できるのかすぐにわかるようになっている。
”BHAGは人々の意欲を引き出す。人々の心に訴え心を動かす。具体的でわくわくさせられ、焦点が絞られる。”
月旅行という目標はくどくど説明する必要のない、明確にゴールが決まっており、だれにとってもわかりやすく、わくわくするものだ。
私たちは常に、退屈な経営理念をくどくど聞かされているが、月旅行のような明確でわくわくする大胆な目標をもっていないのではないだろうか。
進歩を促すためには、通常の経営理念だけではなく、BHAGという強力な方法を使うことを考えてみるべきだろう。
フィリップモリスとRJレイノルズの違い
1961年、RJレイノルズはたばこ業界で最大の市場シェアを握り最大の規模を誇り、収益性ももっと高かった。
フィリップモリスといえば、業界第6位で目立たない企業でシェアは10%にも満たなかった。
しかし、追う立場のフィリップモリスはたばこ業界のゼネラルモーターズになるという大胆な目標を掲げた。具体的には世界市場で圧倒的な力を持つ企業になる意味ということ。
最終的に、レイノルズをトップから引きずりおろすことに成功したが、同じ時期にレイノルズは名門クラブのような雰囲気で、動きは鈍く、はっきりした目標もないまま、株主に高い利回りを提供することだけを考えていた。
ヘンリーフォードの例
1904年、ヘンリーフォードは仰天するようなBHAGで自分の会社の前進を促した。「自動車を大衆の手に」という目標をかかげ、フォードは宣言した。
「大衆のために乗用車をつくる。低価格であり、まともな給料をとっているものならだれでも広大な土地で楽しむことができる。全委員が乗用車を変えるようになり、持つようになる。道路から馬車が消え、自動車に乗るのが当然になる」
フォードはGMを超えるというBHAGを掲げ、それをGMはなすすべなく見守ったが、同じようにGMもフォードを超えるBHAGを掲げたとき、フォードは新たなBHAGをを設定せず、GMに抜かれるのをなすすべなく見守った。
このことから、BHAGが組織にとって有益なのは、それが達成されてない間だけということ。
目標達成症候群にかかってしまったフォード。
ソニーが社名を変更した理由
元は東京通信工業だった。やっと知れ渡ってきた名前だったが、盛田昭夫会長はソニーに変更した。
その理由は、国内市場の開拓さえ十分でなかったが、盛田と井深の思い描いているビジョンのためには海外市場を無視することはできない。日本の製品の品質は悪いという、海外の評判をどうしても変えたかった。
1950年代にはメイドインジャパンは安かろう悪かろうを意味していた。
‐不退転の決意とリスク
不退転:仏道修行を怠らずに励み、しりぞかないこと。一般に、何事にも屈せず固く信じて心をまげないこと。
ウォルトディズニーは映画業界で前例のないプロジェクトとして長時間のアニメ劇映画、「白雪姫」と作って成功させた。
制作するにあたり資産のほとんどをつぎ込み、ディズニーの酔狂という業界関係者の声を無視している。
ディズニーワールドは弟のロイディズニーが命をささげて建設した。そして2か月後になくなった。
これに対してコロンビアピクチャーズは、大胆で先見性があるものの、リスクがある事業にはほとんど手を出していない。1930年代~40年代にはB級映画ばかりつくっていた。
コロンビアピクチャーズは1980年代初めに買収されたが、ディズニーは買収をはねのけ、東京ディズニーランド、ユーロディズニーなど大胆な発展をとげた。
大胆な目標(BHAG)は、社外から見れば大胆に見えるが、社内の人間、実際に挑むものにしてみれば、そうでもないというギャップがある。
ロッククライミングに例えると・・
登山者は命綱なしに岩を上っており、下に落ちれば命がないこともわかっている。それを見ているものは、なにをバカなことを・・と思うかもしれないが、登山者はしっかりと準備と練習を重ねており、集中力を切らさねば問題ないとおもっている。
大胆な目標を立てるものと、それをみるものではギャップが生じる。
‐重要なのは指導者ではなく、時を告げるではなく時計をつくる
BHAGでカギになるのはカリスマ指導者ではない。
アメリカの月旅行のように、”目標それ自体が進歩を促すもの”なのだ。ケネディでもなければニクソンでもない。
ウォルマートも、サムウォルトンが亡くなってからも、目標が、磁石のように会社を前進させる力になっている。
創業者はこの大胆なBHAGを掲げることで、強力な仕組みをつくり、目標が創業者を超えたのだ。
ボーイングでは難しい課題に大胆に取り組むことが組織の性格になっていて、経営者の世代が代わってもこの社風は変わらない。
ソニーでは、目的を決め、具体的ではっきりしたターゲットを決め、それを達成するために必要なチームをつくる。井深会長は、ターゲットを決めたら絶対にあきらめるなと教えている。
なにかをやらないと決定した理由を説明するのは難しい。
そうした決定の背景には様々な理由があり、そのひとつに根っからの臆病さがある。
BHAGまとめ
・BHAGは極めて明確で説得力があり、説明する必要もないほどでなければならない。
・BHAGは目標であり、例えば月旅行に行く、上る山を決めるようなもので、それで組織内の活力がみなぎらないのであればBHAGではない。
・BHAGは気楽に達成できるようなものであってはならない。組織内の人々がなんとか達成できるだろうが、それには英雄的な努力とある程度の幸運が必要だと思えるものでなければならない。
・BHAGはきわめて大胆で、それ自体が興奮を呼び起こすものでなければならず、達成する前に組織の指導者が亡くなったとしても、進歩を促し続けられるものでなければならない。
・BHAG は基本理念にそったものでなければならない。
‐基本理念を維持し進歩を促す
BHAGだけではビジョナリーカンパニーはできない。BHAGを追求するためには、基本理念を注意深く維持するべきである。
例えば、ウォルトディズニーは財務面でどんなに厳しくても、白雪姫の制作、ディズニーワールドの建設には細部までこだわりぬき、基本理念を曲げてはいない。
■第6章カルトのような文化
ノードストロームの規則
その一
どのような状況にあっても自分で考え、最善の判断をくだすこと
これ以外に規則はありません。
‐病原菌かのように追い払われる
調査をするにあたり、ビジョナリーカンパニーが社員にとってすばらしい職であることを示す証拠が集まってくるとおもったがそうではなかった。少なくとも誰にとってもいい職場とはいえないのだ。ノードストロームの流儀を信仰しているもの、それにぴったり合っているものだけである。
これはほかのビジョナリーカンパニーにもいえる。
HPウェイを熱心に学ぶ気持ちになれないのであれば、ヒューレットパッカードの一員にはなれない。顧客へのサービスに熱狂的になるウォルマートの流儀に居心地の悪さを感じれば、ウォルマートの社員にはなれない。
健全さ、魔法、妖精の星屑、といった話に熱中できず、「一点のくもりもない熱意」をもてにあのであれば、ディズニーランドで働くのがいやになるだろう。
わたしたちはここから、ビジョナリーカンパニーになるために、やさしく、居心地のいい環境を作る必要はないことを学んだ。
ビジョナリーカンパニーは勤務成績についても、イデオロギーの信奉という点でも、社員に対する要求が厳しい傾向があるのだ。
[ビジョナリーカンパニーは自分たちの性格、存在意義、達成すべきことをはっきりさせているので、自社の厳しい基準に合わない社員や合わせようとしない社員が働ける余地は少なくなる傾向がある]
これらの企業に勤めるのは、きわめて同質的なグループや組織に加わるようなものだと思える。自分に合っていなければ入らないほうがいい。いずれ病原菌のように扱われて居心地が悪くなり辞めていく。
カルトとビジョナリーカンパニーはいくつか比較対象企業よりも共通した点がいくつか見られる。
カルトと共通した点が4つ
・理念への熱狂
・教化への努力
・同質性の追求
・エリート主義
カルトのようだがカルトではない、カルトとはカルチャーよりは強い。
ビジョナリーカンパニーと比較対象企業を分析した結果
・18組のうち、11組でビジョナリーカンパニーは設立してから一貫して、基本理念の教化に熱心に取り組んでいる。
・18組のうち13組で設立してから一貫して、同質性の追求に熱心である 。会社とその基本理念にぴったりと合っているものと、まったくあっていない者とにはっきりと分かれる。
・18組のうち、13組でエリート主義が強い。(何か特別で優れたグループに属しているという感覚)
・18組のうち14組でカルト主義が鮮明である。
‐IBMが偉大な企業になった過程
IBMはカルトの雰囲気だったとと表現している。
ワトソンジュニアは壁にポスターを張り巡らせた。
内容はこうだ
「無駄にした時間は永遠に失われる」「同じところに止まっていることなどありえない」「決して満足してはならない」「売るのはサービスである」「どういう社員を雇っているかで会社の評判が決まる」など。
社員の行動を縛る厳格な規則は、営業担当者には身だしなみに気を付け、ダークスーツを着るように求めた。結婚を奨励し喫煙を戒め、飲酒を禁止した。※結婚は家族を養う必要があるので、よく働き、会社への忠誠心が強くなると考えていたからだ)。
研修制度を設け、若くて染まりやすい人材を採用し、社内の人材を昇進させる方針を厳格に守った。社外の人間との付き合いを減らして、なるべく社内の人間に同化するよう奨励した。
英雄社員の物語をつくる努力をしそうした社員の名前と写真、英雄的な行動を社内の出版物に掲載した。
1930年代にはいると、幹部になる社員研修を受け、企業文化を学ぶ場として専用の校舎を建設した。
この校舎では、すべてのことが会社への忠誠心を育て、熱意を引き出し、IBMが成功のための道筋として掲げている高い理想を教えることを目的としている。
新入社員は必ず「三つの基本信念」を学び、技術だけでなく、会社の哲学に重点を置く研修コースに参加する。IBMの社員はIBMにふさわしいプロ意識を発揮するよう求められている。
IBMは教会と変わらないほど、自社の心情を組織的に教えている。社員はIBMの熱心な信者になっている。信者でなければ働けない。ここで働くには個性の一部を捨て去る意思がなければならない。
IBMの哲学
当社はビジネスがどういうものか、はっきりした考え方を持っている。当社で働くようになれば、顧客にどう対すべきかを教える。考え方が合わないのであれば早く離れたほうがよい。
そして我々がどこにでもある会社で働いていると考えていたら、IBMはどこにでもある会社になってしまう。IBMが特別な会社だという見方をしっかりと持っていなければならない。
しかし1990年代にコンピューター業界が劇的に変化したとき、三つの基本信念へのこだわりのためではないかという疑問がわいてくるかもしれない。
事実はそうではない。
「IBMがとくに成功をおさめ、環境の変化に適応する能力が特に高かったのは、カルトのような企業文化が特に強かった時期である」
IBMの比較対象企業であるバローズはIBMに一貫してみられるようなカルト主義をほとんどもっていない。アメリカ企業のなかのエリートであるとか特別な会社であるとかの感覚も見られない。IBMは常にバローズに先行している。
‐ウォルトディズニーの魔法
ウォルトディズニーも基本理念を維持するための教化、同質性の追求、エリート主義の三つを徹底してつかっている。
ディズニーはどんなレベルのポストにしろ、新たに採用した従業員には例外なくオリエンテーションの出席が義務付けられている。
=ディズニートラディションズと呼ばれており、社内の教育・研修期間・ディズニー大学の教員が教えている。
研修コースは、ディズニーチームの新しいメンバーに会社の伝統、哲学、組織、ビジネス方法を紹介できる」
とくにテーマパークで働く時給の人たちを徹底して選別し、教育することに注意している。
単純な清掃作業のために雇うときですら、応募者は少なくとも2回、別の最長担当者が面接して選別する。
ひげ、ピアス、厚化粧の人は応募すらできなかった。
1991年、ディズニーランドのスタッフが身だしなみ規則に抗議しストライキしたが、ディズニーは指導者を解雇し規則を守っている。
1960年、ディズニーランドはスタッフの雇用にあたって同質性を保証する基準を設けた。
「スタッフは大体似通っている。女性はたいてい金髪、目は青く、控えめで、郊外のよき母になるという印象である。男性はスポーツマンでいかにもアメリカで気楽に付き合えるタイプ。」
ディズニーランドの新しいスタッフは全員、何日にもわたる研修を受け、以下のような新しい言葉をすぐに覚える。
・従業員はキャストと呼ぶ
・入場者はゲストと呼ぶ
・群衆は観衆と呼ぶ
・勤務はパフォーマンスと呼ぶ
・職務説明書は脚本と呼ぶ
・制服はコスチュームと呼ぶ
・人事部は配役
・勤務時間はオンステージ
・勤務時間外はオフステージ
われわれの事業は人々を幸せにする仕事をしている。相手がだれであれ、何語をしゃべる人でも、どこから来た人でも、肌の色がどうでも、それ以外のどんな違いがあっても問題ではない。ここには仕事のために雇われた人はいません。全員がショーのキャストなのです。
研修はディズニーランドで働く人は創業者の仲間なのだという気持ちにさせることが目的である。
われわれは疲れることがあっても、退屈することはない。大変な一日でも幸せである。ここからの笑顔が湧き出るものでなければならない。
何も頼るものがなくなったとき、笑顔のために給料をもらっていることを思い出すこと。
ウォルトディズニーは秩序と管理に熱意を燃やし、ディズニーの精神をいじするためにしっかりした制度をつくりあげた。
ディズニーが駐車場をかりた最初の年、外部委託のガードマンに依頼したが、間違いだと気づいた。外部委託ではサービスの理想は追求できない。
従業員はすべて自分たちで雇い、訓練している。
本書は、会社の歴史を描いた本ではない。理想、価値、希望をめぐる極めて人間的な戦いの歴史を描いている。この三つは人々が喜んで没頭するものであり、ときには、ばかばかしいと切り捨てるものも出てくるが、きわめて深いものであることに気づいたものは、これを活かすことに生涯をかけるようになり、それが踏みにじられたと感じたときに、激しく怒り、それを守る際に詩人のような情熱を持つようになる。
‐エリート主義とは
ノードストローム、IBM、ディズニー、と同じくプロダクター&がんブルも秘密保持と情報の管理に執着している。
・飛行機の中でしごとするな
・荷物にP&Gの社員だとわかるような名札をいれるな
・人前で仕事の話をするな
と上司が部下に指示し、守られなければ罰則をうける
‐CEO、経営幹部、起業家へのメッセージ
宗教団体や社会運動団体と違い、ビジョナリーカンパニーではイデオロギーに関してオカルト的になっている。
カリスマ指導者を中心とするカルト主義は、時を告げるのに似ている。永続的な基本理念への傾倒を強化する環境をつくりあげるのは、時計をつくるのににている。
「この章で学ぶべき点は、個人崇拝のカルトを作るべきだということではない。それは絶対にやってはならないことである」
学ぶべき点は、基本理念を熱心に維持するしっかりとした仕組みをもった組織をつくることである。
以下のように、実際的で具体的な方法を使って、従業員を強化し、同質性を追求し、特別な集団に属しているという感覚をつくりだしている。
・入社時のオリエンテーションで、技術、技能とともに理念を教育し、価値観、規範、社史、伝統などを教える。
・社内に大学や研修センターを設ける
・同僚や上司がオンザジョブでさらに教育を進める
・社内から人材を登用する方針を徹底して守る。若者を雇い、社内で昇進させる方針をとって、若い時期に従業員の考え方を自社の価値観に合わせて形成する。
・英湯的な行動や模範の神話を絶えず吹き込む
・独特の言葉や用語を使うことで、特別なエリート集団に属している感覚を持たせる。
・社歌、拍手喝采、宣言文、近いなどによって仕事への熱意を高める。
・採用にあたって、入社後の数年間に厳しい選別をおこなう。
・報償や昇進で会社の理念にどこまで適合しているのかを基準にすることを明確にする。
・賞やコンテストで理念に基づいて努力した従業員に報いる。
・理念に反しない間違いは許容し、理念に反する間違いを犯した場合には厳しく処分する。
・祝賀行事によって成功を祝い、帰属意識とエリート意識を高める。
・工場とオフィスのレイアウトを工夫して規範と理想を強める。
・会社の価値観を形を変えて絶えず強調する。
‐基本理念を維持すると同時に進歩を促す
融通のきかないカルトのような文化に不安を抱いたかたもいるだろう。
才能ある人材が逃げ出すのではないか?創造性と多様性が失われるのではないか?などなど。たしかにカルト文化は危険であり、会社にとって制約になり得る。ただしそうなるのは、”陰陽”のもう一つの側がかけているときである。カルト文化は基本理念を維持するものであり、これとバランスをとるものとして、進歩を促す強烈な文化がなければならない。
カルト文化はむしろ社運をかけたBHAG(大胆な目標)を追求する能力を高める。
‐イデオロギーの管理と業務上の自主性
ビジョナリーカンパニーは基本理念を厳しく管理すると同時に、業務上、幅広い自主性を認めて、個々人の創意工夫を奨励している。
カルト文化を持ちながらも、比較対象企業に比べてはるかに権限分散が進み、業務上の自主性を幅広く認めているのだ。
ノードストロームの従業員ハンドブックには、理念にしたがって行動するよう厳しく管理する一方で、従業員に考えられないほどの最良の余地を与えている。店員は販売の専門家であり、専門家に規則はいらない。基本的価値と基準を守ってもらえば仕事をすすめるために何をやってもいい。
つまり、ビジョナリーカンパニーは、理念をしっかりさせ、従業員を強化し、病原菌を追い払い、残った従業員にエリート組織の一員として大きな責任を負っているという感覚を持たせるべきである。
適切な役者を舞台に立たせ、正しい考え方を教え込み、そのうえで状況に応じたアドリブを使う自由を与えるべきである。
■第7章 大量のものを試してうまくいったものを残す
ビジョナリーカンパニーの歴史の中で、各社でとくに成功した動きのうちいくつかが、実験、試行錯誤、臨機応変によるものであったり偶然の結果であったりするのに驚かされる。
‐偶然に消費財に進出したジョンソン&ジョンソン
「当社がベビーパウダーを販売するようになったのはまったくの偶然だった」それより重要な点は同社がこうしてとった小さな動きが第一歩になって大きな動きなったこと。
‐機会を活かして空港サービスに進出したマリオット
マリオットはルートビアーの売店を始めてから9店舗のレストランチェーンをもつ会社を経営するまでになった。マリオットの8店舗目は空港のそばにあり、お客さんはマリオットで購入したスナックや食べ物を飛行機の中に持ち込んでいた。このことからJWマリオットはお弁当事業を始め、百を超える空港に広まり事業の柱になった。
マリオットの8店舗には企業戦略をとったわけではなく、実際には機会をつかまえて実験し、たまたまうまくいったにすぎない。
‐進化する種としての企業
一つの結論。
ビジョナリーカンパニーは比較対象企業に比べて、BHAGに続く第二の「種類の進歩として、進化による進歩をはるかに積極的に促しているのである。進化と表現するのには、生物の種が新開して自然環境に適合していくのに似ているからである。
進化による進歩は二つの基本的な点でBHAGによる進歩とは違っている。
・BHAGはあいまいさがない。大それた目的がはっきりしている。
・BHAGの思い切りさとは違い、それまでの事業の延長戦にある小さな一歩から、予想外の機会を素早くとらえ、そこから大きな、時には意図しなかっ
た戦略が生まれる。
生物の進化が戦略的でない進歩とだったことと同じで、進化による進歩も計画性のない進歩である。
ダーウィンの革命から、生物学者は種が計画通りにつくられたわけではないことを理解するようになった。主は進化してきたのである。この進化の過程はビジョナリーカンパニーのいくつかの環境に適合していく過程が極めてよくにている。
‐ダーウィンの進化論はビジョナリーカンパニーにも当てはまる
チャールズダーウィンの偉大な進化論の核心は、
”誰に指図されたのでもなく、突然変異がが起こり、それが自然淘汰されて種が進化していくことである”
環境がかわると、その環境にとくに適した変異が「淘汰」で生き残ることになる。つまり適した変異が生き残り、適してない変異は死に絶えていくということ。
ダーウィンが「適者生存」と呼んだのは、この過程である。
つまり、生き残った(淘汰で選ばれた)変異は種の遺伝子の全体に占める比率が高くなり、種はその方向に生き残っていく。
ダーウィンの言葉を引用するなら
”繁殖し、変異し、強いものが生き残って、弱いものが死に絶える”
「進化の過程は枝分かれと剪定に似ていえる私たちは考えている。気が十分に枝分かれし、(つまり変異を起こして)枯れた枝をうまく剪定すれば、変化を繰り返す環境の中でうまく成長していくのに適した健康な枝が十分にもつ木に進化していくだろう」
ジョンソン&ジョンソンは、今でも枝別れと剪定を意識して促している。
いくつもの新しいものを試し、うまくいったものを残す。いかなかったものを捨て去る。権限の分散を進めて、創意工夫を促し、社員が新しいアイデアを実験できるようにして、変異を促進している。
同時に厳しい選択の基準を設けている。多数の試みの中で、収益性を実証し、会社の基本理念にあっているものだけが、事業の一部として残されることになる。
ジョンソンジュニアは、「失敗は当社にとってもっとも大切な製品である」
といっている。
進化の過程では実験の失敗を認めなければならないことを理解していた。
ウォルマートの創業者の息子 ジムウォルトンは、
「父が偉大な策略家で天性の才能によって着々と実行に移したと書かれているのを見ると、社内の人間はくすくすと笑っている」
ウォルマートのモットーは、なんでもやってみて手直しして、試してみる
だ。
ウォルマートの例をもとに、この章のはじめに引用したダーウィンの言葉を次のように言い換えることができる。
環境に見事に適したビジョナリーカンパニーは、主に賢明な洞察力と戦略的な計画の結果であると考えるよりも、基本的な家庭の結果だと考えるほうがはるかに事実にあっていると思われる。
つまり、多くを試し、上手くいったものを残し、いかなかったものを捨て去るという過程である。もちろん、生物と企業をまったく同じと考えるわけにはいかないが。
なぜなら企業には目標を定め、計画を立てる能力があるからだ。
ダーウィンのいう淘汰とは、自然の淘汰であり、まったく無意識のうちに環境に最もてきした変異が生き残り、弱い変異が死に絶える過程である。
言い換えれば、自然界と違い、人間がつくる組織では意識的な淘汰が可能である。また自然界の進化では、種が生き残ること以外にはなんの目標もイデオロギーもない。
これに対して、ビジョナリーカンパニーは基本理念の範囲内で望ましい目標を掲げ、それに向けた進化の過程を意識的に促すことができる。
この過程を、「目的のもとでの進化」と呼んでいる。
もちろん、ほかの企業も進化しており、進化する機会も山ほどあるが、ビジョナリーカンパニーは進化の力をはるかに積極的に利用している。
「進化の過程は、それをよく理解し、積極的に利用すれば、進歩を強力な方法となる。そして比較対象企業と比べ、進化の過程の利用にはるかに積極的である」
ボーイング、ディズニー、IBMは進歩のためのほうほうとして、BHAGをはるかに重視している。
‐3M ミネソタの突然変異製造機がいかにしてノートンを突き放したか
ヒューレットパッカードのビルヒューレットにインタビューしたとき、尊敬し手本にしている企業に「3Mだ 断言できる」と返ってきた。
3Mがどう動くのか、だれにもわからない。さらにすごいのは、3M自身、どう動くのかわかっていないことだ。
しかし、ビジョナリーカンパニー18社の中で100年間、成功を続け、環境に対応していく企業を選べと言われれば、間違いなく3Mだろう。
皮肉なもので、3Mは設立そうそうに大きな失敗をしている。
1904年、寒い日々、取締役は毎週会議を開いて解決策を話し合った。しかし設立者は絶対にあきらめないと決意していた。幸いなことに従業員も同じだった。全員が会社の生き残りのために犠牲を払うと申し出た。
1914年、マックナイトを総支配人に昇進させた。マックナイトは会社を前進させるアイデアを常に求めていた。
マックナイトは会社の進化と拡大を自分一人の力で達成しようとしたわけではない。常に内部で変異を遂げていく組織をつくり、従業員それぞれの創意工夫によって前進していく仕組みづくりをしたのである。
マックナイトの考え方
・独創的なあいであの人の意見に耳を傾けよう
・激励しよう、ケチをつけるな、愛でを出すよう奨励しよう
・優秀な人材を雇い、自由に仕事をしてもらおう
・部下のまわりにフェンスをめぐらせば臆病になる 必要な自由を与えよう
・思い付きの実験を奨励しよう
・試してみよう、なるべく早く
進化の過程の前提になるばらばらの変異が生まれることをマックナイトは直感的に理解していた。すべてが好ましくないことも理解していた。
マスキングテープ開発者:3M ディックドリュー
3Mはついにサンドペーパー以外の分野に一歩ふみだすことになった。
セロハンテープ(スコッチセロファンテープ)
開発者:ディックドリュー
そのほか
反射型の道路標識、ビデオテープ、プロジェクター、フロッピーディスク、ポストイットなど
ポストイットを発明したアートフライはこう説明している。
1974年、教会の合唱隊で歌っていて、ピンとひらめくものがあった。日曜日ごとに歌う聖歌をすぐに見つけられるように、わたしはそのページに小さな紙きれをはさんでいた。肝心の時に紙切れはとんでしまった。この日、少しばかり接着剤を塗っておけば、うまくいくんじゃないか。
そこでスペンサーシルバーが開発した接着剤をしらべることにした。
スペンサーは15%ルールを活用し、思い付きの実験を奨励する原則に従って研究室で変わった接着剤を発明した。
アートフライの発見+スペンサーシルバーの15%ルール
‐ノートンとのあざやかな違い
3Mの比較対象企業であるノートンは、3Mとは違って設立の際に事業目的が優れており、15年目には投資家の資本は15倍に増えていた。3Mは1902年から14年まで、生き残るのが精いっぱいという状況にあったが、ノートンは3Mの十倍の売り上げ高を誇り、3Mとは比較的にならないほど収益性が高かった。
このように、収益をあげていたノートンですら、永久運動機械の3Mのようなペースでせいちょうを続けるっことはできなかった。
ノートンが3Mに追い抜かれる下地になったのは、3Mと違い、実験や計画外の進化を促すはっきりとした仕組みや慣行をひとつもつくっていないことにある。3Mの試してみよう、なるべく早く とは異なり、がちがちの中央集権化であり官僚制を確立し杓子定規と停滞が特徴となった。
新しいものを発明するのではなく、既存の製品の改良にコストと時間をかけていた。
ノートンも3M接着剤の類似品にこころみたが、3Mのブランド力には太刀打ちができなかった。
ノートンも3Mniならって、動いたが、新規事業ではなく、買収による拡大であった。
1970年代、80年代、3Mは個人の創意工夫を奨励することによって、次々に新しい分野に進出していった。これに対してノートンは、コンサルタントから渡された調査結果と戦略計画に依存していた。
ノートンの社長は計画こそが「命」と豪語していた。
‐CEO,経営幹部,起業家にとっての教訓
5つの教訓
①試してみよう、なるべく早く
②誤りは必ずあることを認めよう
進化の過程には誤りと失敗がつきものであることを認めよう
③小さな一歩が大きな転換になることを忘れてはならい
④社員に必要なだけの自由を与えよう
社員がなにをやるか予想ができないことも「良い点」なのだ
⑤重要なのは仕組みである
指導力を発揮して、正しい方針を示せば部下は実験を始め新しい試みをはじめる
‐してはならないこと
チェースマンハッタンの典型例
1960年代~1970年代にかけて、支配魔のデービットロックフェラー銀行と呼ばれ、社内が恐怖政治のようになっていた。
管理職は毎日、ほとんどの時間を会議に費やし、意思決定や行動に使う時間を確保できなかった。1980年代になっても社風がのこっており、新しいアイデアを試そうとしない経営幹部が多かった。
理由はデービットが喜ばない・・だ。
バローズのレイマクドナルド社長も会社を一人で取り仕切っていた。
新しいことにチャレンジする才能ある人材をほとんどすべて追放し、失敗したり誤りを犯した幹部を人前で叱責した。自分が常にボスであることを示さなければ安心できなかった。
‐基本理念を維持し、進歩を促す
したがって、①~⑤の教訓に六番目の教訓を加える。
進化による進歩を促す前に基本理念を維持することをわすれてはならない。
3M ウィリアムマックナイトの言葉
65年間を振り返って・・
我々がどれほど互いに依存しあっているのか、共通の価値観に依存しているのかを強調しておくべきだろう。我々にとっての課題は人間についてのこの重要な教訓を重視しながら個人を十分に尊重することである。
進歩を続け、アメリカと世界にとって役立つ事業を続けていくためには、我々は卓越した仕事をする。最高の仕事、最も難しい仕事は冒険と朝鮮の精神によって成し遂げられるのだ。
■第八章 生え抜きの経営陣
この本で、わたしたちはビジョナリーカンパニーでの経営者の役割を重視していない。しかし経営者の指導力は大した問題ではないと考えていない。経営者は組織に影響を与えるし、ほとんどの場合その影響ははかりしれない。問題は、その影響が正しいものであるかどうかである。
ビジョナリーカンパニーは比較対象企業より、はるかに社内の人材を育成し、昇進させ、経営者としての資質をもった人材を注意深く選択している。後継者の育成を、基本理念を維持する努力の柱にしている。
社外経営者を採用したのはビジョナリーカンパニーでは2社
比較対象企業では13社となっている。
角度を少し変えてみて
ビジョナリーカンパニーの1700年の歴史のなかで社外の人材が最高経営責任者になった例は4回しかない。
要するに、その差の要因は
” 優秀な経営陣の継続性が保たれていること ” それによって基本理念が維持されることなのだ。
‐後継者不足に苦しんだコルゲートとP&
20世紀初めまで、コルゲートは並外れた企業であった。1世紀にわたりP&Gと肩を並べていた。
当初、どの企業よりも明確に基本理念を表明し、基本的な価値としっかりとした事業目的を定めていた。
その後、1940年になるとP&Gよりも収益性と規模で4分の1以下になり、社風もあいまいになってしまった。
その原因は、P&Gと違い、後継者計画が貧弱で経営者の継続性が保てなかったことにある。コルゲートは4代までは生え抜きの経営陣だった。しかし20世紀はじめに経営幹部の育成と後継者計画に失敗した。
=ワンマン経営者では人は育たない
同じ時期、P&Gも後継者問題で一族経営から脱却する必要性があったものの、経営陣の人材不足に困ることはなった。
コルゲートがまともな後継者の育成を怠っていたころ、1909年に入社した生え抜きのリチャードデプリーを最高経営者の地位を担えるように注意深く準備していた。1930年、P&Gでは初めて一族以外のものが経営者となり、それから18年間、みごとな実績をのこした。
ひとつの盛大から次の世代へ経験を伝えていくのは、毎日の作業であり、それは何年も続くという。
モトローラは生え抜きの経営幹部が育つように、またひとりずつではなく通常三人で構成される執行室が経営にあたる構想をした。
モトローラは設立から60年、一度も経営者の断絶に苦しんではいない。
ディズニーでは創業者のウォルトディズニーが有能な後継者を育成せず、1970年代になると、経営幹部は会社の方向性を見失った。
1984年、取締役会はこの危機を逃れるために、社外から経営者を迎えた。部外者を選ぶにあたっても、基本理念の維持をはっきりとした目標にして、最善を尽くしたことをは理解したい。
ディズニーの教訓で学んだことは、経営者を外部から招いても、基本理念にぴったりと合った候補者をさがすべきなのだ。
‐CEO、経営幹部、起業家へのメッセージ
調査結果の要約では、社外から経営者を招いていては、先見性が際立つ企業になることも、その座を守ることも極めて難しいといえる。
同時に生え抜き=大きな変化は両立できる可能性がある。
経営幹部育成のための計画制度を設け、長期的な後継計画をつくってひとつの世代からつぎの世代への移行が円滑に進むようにすべきだ。
ビジョナリーカンパニーを築くという観点に立つなら、問題は今の世代で会社をどこまで素晴らしいものにするかだけではない。
決定的な点は、次の世代で会社がどうなるか、その次の世代でどうなるかである。偉大な指導者もいずれ寿命がくる。しかしビジョナリーカンパニーは何世紀にもわたって前進をつづけ、個々の指導者が活躍できる年数をはるかに超えて、その目的を追求し基本的価値観を貫いていく。
■第九章 決して満足しない
ビジョナリーカンパニーで最も大切なことは、
”明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるか”である
ビジョナリーカンパニーではこのように問いかける仕組みをつくっており、毎日の習慣にして考え、行動している。これら企業が素晴らしい行動をとり、実績を上げているのは、常に改善を進め、将来のために投資する終わりのない過程の結果7、自然に成果が生まれてくるからなのである。
とりわけビジョナリーな企業には清秋的なゴールがあるわけではない。目標を達成できたと喜ぶこともない。どこまで前進しても、残りの道筋は楽に流して、それまでの労働の成果を包み取ればいいと感じることはない。
ビジョナリーカンパニーが飛びぬけた地位を獲得しているのは、将来を見通す力でもなく特別な秘密があるわけでもない。
主に「自分自身に対する要求がきわめて高いという単純な事実のためなのである」
Jウィラードマリオットシニアの成功の秘訣
世の中で一番大切なものは自己を律することである。それがなければ人格は形成しない。人格が形成しなければ進歩はない。なんのために働くかで成果は変わってくる。問題を克服できれば人格が養われ成功尾をもたらす質を獲得できる。
ビジョナリーカンパニーでは、不断の改善がしっかりした仕組みに基づいて、日々の行動に一本筋を通す習慣として、組織の隅々にまでにしみ込んでおり、現状をいつも不十分と感じるようにする具体的な仕組みによってそれを強化している。
‐現状を不十分と感じるようにする仕組み
ここまで読むとビジョナリーカンパニーは安心できる職場でないことがわかる。
「安心感は、ビジョナリーカンパニーにとっての目標ではない。それどころか、ビジョナリーカンパニーは不安感を作り出し、それによって外部の世界に強いられる前に変化し、改善するよう促す強力な仕組みを設けている。
偉大な芸術家や発明家と同じように、ビジョナリーカンパニーも不満を栄養に成長する。不満がなくなれば、自己満足に陥り、自己満足に陥れば勢いが衰えるしかない。
問題はどのように自己満足を避けるかである。会社が成功をおさめ、業界でトップになったとき、どのようにすれば自らを厳しく律していくことができるのか。P&Gのリチャードデプリーはまさにこの問題を考えていた。
デプリーは、会社が将来、改善を続けていくには正しい意図を示すだけでは不十分であることを理解していたのだ。
そこで、マーケティングマネージャーのニールマッケルロイが
斬新な提案を持ってきたとき、それを高く評価した。それはブランドマネジメント体制をつくり、P&Gのブランド同士が直接に競争するようにするということであった。
市場に十分な競争相手がいなければグループ内で競わせる仕組みをつくり安住しないようにした。
ゼネラルエレクトリックは、社内で不安感を生み出す仕組みとして「ワークアウト」と呼ばれる制度を設けている。従業員がグループごとに集会を開き、改善の提案を話し合って、具体的な提案をまとめる。管理職は議論に加わることは許されず、全員の前でその場で提案について回答しなければならない。逃げることも隠れることもそらすことも回答を延ばすこともできない。
ボーイングは不安感を生み出すために「敵の視点」と呼ばれる事業計画を作成した。方法は、何人かの管理職に競争相手の立場に立って、ボーイングを壊滅させる戦略を立案する任務を与える。競争相手が利用できる弱点はどこにあるのか。どのような強みを利用しようとするのか。これに基づいて戦略を考えていく。
さて比較対象企業ではどうだろうか、今回の調査ではビジョナリーカンパニーと同じ程度に不安感を生み出す仕組みをつくっていることを示す証拠は見つからなかった。設立以来、一貫して厳しく自己を律している企業はなかった。逆に比較対象企業は楽な道を選び、時として長期的な将来を犠牲にして短期的な利益を追求している。
”ビジョナリーカンパニーの経営幹部は短期的な業績または長期的な成功の二者択一を受け入れない。何よりもチョキ的な成功を目指しながら、同時に短期的な業績についても高い基準を掲げている”
‐長期投資に力をいれるビジョナリーカンパニー
ビジョナリーカンパニーのでは、比較対象企業に比べて招待のための投資がいいことが裏付けられた。売上高に対する設備投資の比率が一貫して高いことがわかった。
ビジョナリーカンパニーは人勢に対する投資にもはるかに積極的で、採用、研修、能力開発に力をいれている。
メルク、3M、モトローラ、GE、ディズニー、マリオット、IBMはいずれも自社の大学や教育センターに巨額を投資して、徹底した研修と能力開発を進めている。
■第十章 はじまりの終わり
ここ十年程、時間と経費をつかって経営理念、価値観、使命、目的などを題したシャレた文章をつくっているが、こうした文章がビジョナリーカンパニーの真髄ではない。
ビジョナリーカンパニーを築くにはなによりも文書を書かなければと考えたとしたら、本書の主張の要点をまったくよみとれなかったことにある。
ビジョナリーカンパニーの真髄は基本離縁と進歩への意欲を組織のすみずみに浸透させていることにある。
ビジョナリーカンパニーは、一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に補強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想をごかいすることはまずできないようにしている。
本書の全体にわたって説明してきた「一貫性」の例を提示する。
‐ 一貫性の力 フォード、メルク、HP
●フォード
フォードが1980年代に驚くほどの業績回復を達成したときに経営陣が作成した「使命・価値観・指導原理」がその柱になった。MVGPには利益より人々と製品を大切にすると書かれており、品質の改善、従業員の参加、顧客満足を重視する。と書かれているが、この文章が業績回復をもたらしたわけではない。
自動車メーカーとしての原点に戻るために、フォードは新しいグループをつくって完全に新しい乗用車を設計するBHAGに取り組んだ。フォードは大小さまざまの数百の仕組みをつくって、MVGPを日常業務に反映させ、実現していった。
●ヒューレットパッカード
ビルヒューレットとデーブパッカードは、人事慣行が進歩的で、技術革新と起業家精神を重視する企業文化を持ち、技術の進歩に貢献する新製品を絶え間なく生み出していく他社の手本となるような企業を築き上げることを目標としていた。
同社の4つの義務
・収益性を高く保って成長を続ける。
・利益は技術の進歩への貢献によるものでなければならない。
・従業員の人間としての価値を認め従業員と会社の成功を共有できるようにする。
・社会の中で責任ある企業市民として活動する。
これらの高い理想価値を、これらに従って行動に一貫性を持たせた。
ヒューレットの説明
細かい指示は出さない。この分野に進出したい。具体的は方法は考えてほしい。とだけいう。この際にはもちろん、最高の技術を使って危機をせっけいするはずだと期待している。
HPの理論
発売1年目に十分な粗利益が出るほどの良い製品ではないのなら、その製品には技術的にみて十分な利点がないのであり、HPが製造する理由がない。これについて議論の余地はない。
つまり、製造したものが1年で利益がだせないものは不十分な製品であることである。
‐CEO、経営幹部、起業家のための一貫性の教訓
HPが1950年代にそうしたように自社の基本理念について話し合うために社外で会議を開くのは、素晴らしい方法だ。
メルクがそうしたように、自社のために高い理想を掲げることも重要である。
フォードがそうしたように、自社の指導理念を文書にするのも重要である。
一貫性を達成するには、働き続けるしかない。
1.全体像を描く
ビジョナリーカンパニーは基本理念を維持し、進歩を促すためにひとつの制度、戦略、戦術、仕組み、文化規範、象徴的な動き、一回の発言に頼ったりはしない。重要なのはこれらすべてを繰り返すっことである。
重要なのは驚くほど広範囲に、驚くほどの一貫性を、長期にわたって保っていくことである。フォード、メルク、HPの個々の事実は一つ一つ切り離してみれば、ささいなことであり、ビジョナリーカンパニーの要因だとはとても言えない。しかし数百にも及ぶ事実を組み合わせたとき、一貫した全体像ができあがる。基本理念だけ、進歩への意欲だけ、社運を賭けた大胆な目標だけ、自主性と起業家精神だけ、生え抜き経営陣だけ、カルトのような文化だけ、決して満足しない精神だけではビジョナリーカンパニーにはなれない。
重要なのは大きな部分だけではない。ほんのちょっとした細部、つまり、言い回し、絶妙なタイミング、リズムの変化など「神は細部に宿る」のだ。
2.小さなことにこだわる
従業員は日々の仕事で、「大きな全体像」に取り組んでいるわけではない。会社とその事業の中の細部に取り組んでいるのだ。従業員に強い印象を与え
、力強いシグナルをごく小さなことである。ノードストロームは店員に与える名刺は、確かにちいさなことだが、「当社はみなさんが販売のプロになるようねがっている」というシグナルを送っている。
ウォルマートが一番下のレベルの従業員にも部門の財務報告書をわたしているのは、確かにちいさなことだが、自部門を自分の小さな事業だと考えて経営するよう願っている。というシグナルを送っている。
ジョンソン&ジョンソンが主要な事業部門に、製品に独自のロゴをつけて会社のロゴをつけないようにしているのは、「当社は各部門に起業家精神にあふれる独立した事業部門だとかんがえて経営するよう願っている」というシグナルを送っている。
社会的認知の調査で、従業員は職場環境のシグナルなら、小さくても大きくてもすべて認知し、自分がどのように行動すべきかを考える材料にしている。従業員は会社のビジョンを信じたいとおもっている。しかし、ささいな言行不一致があるとそれを見逃さない。お偉い方はきれいごとを言っているだけなんだと見透かされてしまう。
3.下手な鉄砲ではなく、集中砲火を浴びせる
ビジョナリーカンパニーはいくつもの仕組みや過程をバラバラにつくっているわけではない。それぞれが互いに強化し合い、全体として強力な連続パンチになるように、仕組みや過程を集中している。いくつもの要素が相乗効果を持ち、連携し合うようにしている。
4.流行に逆らっても自分自身のながれに従う
メルクとHPが経営の常識に逆らって、自らの立場を守りぬいたことを考えてみるべきだ。一貫性というのは、自分自身の方向感覚に従うことを意味し、外部の世界の標準や慣行、慣習力、トレンド、流行り、に押し流されないことを意味している=信念ともいえる
しかし現実を無視すべきだということではない。現実はしっかりと捉えること。自社の基本理念と理想こそが現実をとらえる際の指針にならなければならない。
「正しい問いの立て方は、「これはよいほうほうなのか」ではなく、「この方法は当社にあっているのか、基本理念と理想にあっているのか」である」
5.矛盾をなくす
たったいま自分の会社をみわたしてみると、基本理念との一貫性がとれていなかったり、進歩を妨げているものが少なくとも十以上は見つかるはずだ。こうした不適切なものがどこからともなく入り込んでいるのである。
一貫性を達成するには、新しいものを加えればいいものではない。進歩を妨げたりする矛盾を見つけ出し、粘り強く改めていく終わりのない努力が必要である。例えば、オフィスのレイアウトが進歩を妨げているのであればレイアウトを変更する、戦略が基本理念と矛盾しているのなら戦略を変える、組織構造が進歩への障害になっているのなら組織構造を変える、報酬制度が基本理念と矛盾しているのなら変える。
ビジョナリーカンパニーで変えてはならない聖域は基本理念だけであることを忘れてはならない。それ以外はなんでも無くすし変えることができる。
6.一般的な原則を維持しながら新しい方法を編み出す
ビジョナリーカンパニーになるには基本理念がなくてはならない。また、進歩への意欲を常に維持しなければならない。そして、基本理念を維持し進歩を促すように、すべての要素に一貫性がとれた組織でなければならない。以上の3点は百年前にも言える、ビジョナリーカンパニーとそれ以外を隔てる要因であった。それは今日でも同じである。ビジョナリーカンパニーが基本理念を維持し、進歩を促すために使う具体的な方法は間違いなく変化し、進歩していくだろう。BHAG、カルト文化、実験による進化、生え抜き経営陣、不断の改善などは基本理念を維持し効果が実証されているが、それ以外の方法が編み出せないことはない。今後、あらたな方法が考案されるだろう。明日のビジョナリーカンパニーは今既に、もっと効果のある新しい方法を実験している。競争相手がみればなんと変わった方法だとあきれるが、いつの日かそれが常識になるだろう。
そして、その点こそまさに今働いている会社でやるべきことなのである。地位や役職、外部委託に問わず、会社の全員を導き、全員の励みになる基本理念を維持するために考えられる限りすべての方法を実行するべきなのだ。
そして、現状への不安感をつくりだし、変化、改善、革新、更新を促す仕組みで、本書に書かれていないことを考えついたのであれば実行するべきである。
‐これは終わりではない
私たちは時の試練に耐えてきた本当に傑出した企業を支える基本的な要因を見つけ出し、伝えるために最善を尽くし、細部にわたる例や事実を大量に収めてきた。本書を読んで、今後のビジネスに活かし、周囲の人たちに伝える教訓として以下の4つの概念だけは覚えてほしいと願っている。
1.時を告げる預言者ではなく、時計をつくる設計者になれ!
2.ANDの才能を重視せよ!
3.基本理念を維持し、進歩を促す!
4.一貫性を追求せよ!
-おわりに
頻繁にうける質問
●自分たちの会社をビジョナリーカンパニーにしたいと考えるがなにからはじめればいいか
⇒まずは基本理念をしっかりさせるべきだ。項目が5つ以上なら基本的な要素まで分析が煮詰まっていない可能性がある。箇条書きでもできたら社内で議論してみてはどうか?
”状況がかわり業績が落ち込むことがあってもまもりぬこうとするか?”
”十年たって、品質が市場での差別化になんの意味も持たなくなったらそれでも基本的価値観のひとつにあげたいか?”
”百年たってもこの目的に変わりないといえるだろうか?”
ここで極めて重要なのは、基本理念はつくりあげることも設定することもできない。基本的理念は見つけ出すしかない。内側を見つめることで見つけだすのである。基本的価値観と目的は心の奥底で信じているものでなければならず、そうでなければ基本理念にはならない。
基本理念が固まれば、基本理念以外の点はどんな点でも自由に変えられると考えるべきだ。
基本理念を文書にするのは出発点にすぎない。
●歴史はあるがビジョンのない大企業にも希望はあるのか
⇒希望はある。しかしビジョナリーカンパニーをゼロから作り上げるよりおそらく難しい。たとえば、基本理念との一貫性をもたせようとすると、しっかりと根付いている慣行をいくつもかえたり無くしたりするひつようがある。フォードやフィリップモリスも設立百周年をむかえた1940年代後半までビジョナリーカンパニーの特徴はあまりもっていなかった。
ビジョナリーカンパニーかどうかは、白か黒かの二つではなく、直線状のどこに位置しているのかという問題である。どの企業もいつでもこの直線状の良い方向に動いている。ビジョナリーカンパニーになるには、基本理念を維持し、進歩を促す組織を築いていく終わりのない過程に、長期的に取り組むしかない。
●ビジョナリーカンパニーの地位を失いかけている企業、例えばIBMにどのような助言を与えるか
IBMの例をみてみると、ビジョナリーカンパニーかどうかの直線上を良い方向に進むことができると同時に、悪い方向にすすむこともある。ビジョナリーカンパニーの地位を確立してもいつでもそこにとどまれるとは限らないのだ。1980年代になってIBMは保守的になり、メインフレームを必死に守るようになった。助言する機会があれば、IBM360に匹敵するBHAGを設定するっように促すだろう。もう一度、既存製品を陳腐化させ、BHAGの成功に社運を賭けるように促すだろう。またジョンソン&ジョンソンのように三つの基本信念に立ち返るように促すだろう。最後に一貫性を追求する動きをはじめるよう促すだろう。三つの基本信念と矛盾する点を少なくとも50個見つけ出す。そのうえで進歩を妨げる矛盾を完全に取り除く。
●ビジョナリーカンパニーを築くには適してない人はいるのか
ほとんどいない。適してないのは長期にわたって粘り強く仕事を進めていくのを望まない人、成功したら自己満足して努力しなくなる人、基本理念をもたない人、自分が去ったあとの会社に関心を持たない人だけだろう。進歩への意欲がないのであれば、常に改善を求める情熱がなく、前進することに喜びを感じるわけではないのであれば適していない。
●ビジョナリーとは「成功した」を言い換えただけなのか
ビジョナリーカンパニーを選び出すためのアンケート調査が経営者を対象にしている以上、財務面での成功が重要な要素になっていることは確かで、収益性が低い企業をビジョナリーカンパニーとして、経営者が選ぶことはまずない。しかし成功している企業すべてをビジョナリーカンパニーと呼んでいるというは「NO」だ。
財務面で成功しても本書のビジョナリーカンパニーのリストに入っていない企業が多い。わたしたちの調査に回答をよせた経営者がビジョナリーカンパニーを単に財務面での業績が素晴らしい企業という意味でとらえなかった。
1926年~1990年までの期間をたどればビジョナリーカンパニーはほぼどの企業よりもすばらしい業績をあげている。ここに経営者が財務面の実績を考えて回答したとしても極めて長期にわたって成功を収めている企業という観点を持っていたことになる。
‐比較対象企業のまとめ
3M と ノートン
アメリカンエキスプレス と ウェルズファーゴ
ボーイング と ダグラスエアクラフト
シティーコープ と チェースマンハッタン
フォード と ゼネラルモーターズ
ゼネラルエレクトリック と ウエスチングハウス
ヒューレットパッカード と テキサスインスツルメンツ
IBM と バローズ
ジョンソン&ジョンソン と ブリストルマイヤーズ
マリオット と ハワードジョンソン
メルク と ファイザー
モトローラ と ゼニス
ノードストローム と メルビル
P&G と コルゲート
フィリップモリス と RJレイノルス
ソニー と ケンウッド
ウォルマート と エームズ
ウォルトディズニー と コロンビアピクチャーズ
以上。
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